本研究の目的は、ロマン主義時代の環大西洋エコロジー(Transatlantic Ecology)研究を発展させ、新たに人新世の観点から、英米ロマン主義文学・思想の「語り」における「グリーンケア」の構想、およびその現代文化・社会への反映・展開を解明し、今日的意義を再評価することである。まず、英米ロマン主義思想が持つ、自然環境構築に関する人新世的な観点について個別具体的に検証する。また、文学的「語り」を通して傷ついた生態系や心身を癒し再生しようとするロマン主義文学には、様々な政治的立場を超えて人と自然環境との相互ケア的関係を捉える「グリーンケア」構想が見られることを精査する。これらを通して、英米ロマン主義時代の環大西洋エコロジーの体系的分析・考究を深化・発展させるとともに、自然・社会科学中心に議論されることの多い現代の環境諸問題に対して、人文学からひとつの答えを提示することを目指す。
本研究では以下の三つのサブテーマを設け、研究を遂行する。
【サブテーマ 1】 環境災害とグリーンケア
人新世における環境破壊は、ローカル/グローバルな規模で人間の生存を脅かす厄災となる。ここでは英米ロマン主義に影響を与えた災害を人新世的環境災害ととらえ、それに触発されたグリーンケアの展開を考察する。
【サブテーマ 2】 癒しの「語り」
ロマン主義の「語り」が、傷ついた心身のグリーンケアによる癒しの実践の場であったことに注目し、その諸相を分析する。
【サブテーマ3】 環境再生と保全
環大西洋エコロジーによる環境の保護と再生のヴィジョンを検証し、グリーンケアの可能性を多面的に探究する。